東京都小平市、JR武蔵野線新小平駅から歩いてすぐの場所に、存在感のある円柱の建物が現れる。 2020年4月に開院した「カラムンの森こどもクリニック」は、一般小児科の診療はもちろん、院長である内田創先生のご専門である児童精神科を標榜しているクリニックだ。2階には思い切り体を動かせるリハビリスペースを設けており、ここで子どもたちは感覚統合療法を受けることが出来る。 一回目の緊急事態宣言下でのクリニック立ち上げはやはり苦労する部分もあったが、開業から2年、地域に根差した小児科としてクリニックには子どもの笑顔があふれている。
小学生の頃に出会った恩師に憧れ、人のためになる仕事に就きたいと考えた内田先生。幼少期にぜんそくで病院に通っていた経験もあり、医師を志した。
「一概に小児科医と言っても、腎臓や心臓など、何か一つ自分の専門分野を持つことになります。しかし私は、一つの臓器に特化して診療・研究にあたることにあまり興味が持てませんでした。子どものことをオールマイティに診たいと思いながら自分自身の専門分野を考えていた際、入院患者さんと接するときは心の分野に触れることが多いことに気づいたのです。 心の問題は、教科書に書いてあるような症状・事例はほんの一部分にすぎません。だから多くの医者は『精神科の領域』として避けてしまいますが、このままでは全然患者さんのことが診られないと思って児童精神についての勉強を始めました」
開業したいという気持ちを医師になった頃からずっと胸に抱いていた内田先生。しかし何もツテがなく、周りからも最低10年は臨床で頑張った方がいいというアドバイスを貰っていたこともあり、開業のタイミングを見計らっていた。
「最初は自力で開業しようと思い、土地を買おうと動いていました。リハビリテーションを行いたかったので広い土地が必要だったのですが、それには莫大な費用が掛かることが分かりました。その後医療機器メーカーにコンサルをお願いして開業を目指すものの、億単位のお金が必要になる現実を前に、なかなか勇気が出ませんでした」
開業したい気持ちと金銭的なプレッシャーの狭間で悩んだ内田先生は、医歯薬ネットが開催していた医院開業セミナーに軽い気持ちで参加してみたという。
「とりあえず行ってみただけなので、事前のアンケートでは、セミナー後の個別相談は希望しないと書いて提出していました。 しかしセミナーが始まると、医歯薬ネットの代表取締役会長である森田さんがお話しされる医療業界の今後や開業にまつわるお話に心惹かれるものがあり、これは個別面談をしてお話を聞いた方が良いのでは…と思い始めました。ただ、私は事前のアンケート内容から自分のところには誰も来ないと思っていました。しかしセミナーが終わると私のもとにコンサルタントの方が来てくださり、そのまま個別面談を行う中で、医歯薬ネットさんになら任せられると思い、即日契約しました」
※コロナ流行以前、当社セミナーは各地のホテルで対面形式で行っておりました。当時はセミナー終了後にコンサルタントとの面談時間を設けており、ご開業場所のご相談から融資のご相談など、開業にまつわること全般のご相談を承っておりました。
億単位で掛かる開業費用に頭を悩ませていた内田先生に、医歯薬ネットから提案されたのは“建て貸し”という方法だった。建て貸しとは、オーナーに建物を建ててもらい、医師はそれを借りるというもの。賃借人である医師の希望を取り入れた建物を建ててもらえる上、先生ご自身で土地代と建物代を捻出する“戸建て開業”と比べて初期費用はグッと抑えられる。
「当時私は立川市にある病院に勤めていたので、病院との連携の取りやすさを考えて同じ立川市で開業しようと思っていました。しかしクリニックに適する土地はなかなか見つからず、医歯薬ネットさんには建て貸しをしてくれるオーナーを探してもらったのですが、建て貸しはオーナーとの相性やオーナーの相続の兼ね合いからタイミングもあるので苦戦し、半ば諦めもしました。そこで小平市まで希望エリアを広げたところ、この場所が見つかりました。土地探しには2年くらい掛かりましたね」
カラムンの森こどもクリニックには、子どもたちにとってここが幼少期の原風景として残ってほしいという内田先生の思いが込められている。象徴的なのは、大木を思わせる円柱状の待合室だろう。
「小平市は円柱ポストが都内で一番多く設置されている町ということと、円柱は人が集まりやすい構造だと思ったこともあり、設計士の方にお願いしました。平屋造りよりもグッと値段は上がりましたが、建て貸しをしてくださるオーナーがとても良い方で、私の希望通りの建物を建ててくださいました。内装で意識したことは素材感です。子どもたちが触ったときに手のひらから感じる感触を大切にしたいと思っていたので、木を多く使ったり、スタッフみんなで診察室の壁に漆喰を塗ったり、扉のアクセントとして会津木綿を用いたり、いろいろな感触を感じられるようにしています」
子どもたちの“体験”を大切にする内田先生にとって、感覚統合療法を行うためのリハビリスペースは必要不可欠である。2階のリハビリスペースにはボールプールやターザンロープ、ブランコ、サンドバッグなど様々な遊具が取り揃えてある。
「感覚統合療法はアメリカの作業療法士エアーズ氏が開発した、LD(学習障害)の子どものための治療法です。学習障害ならば読み書きを教え込んだら良いのではと思われがちですが、体を揺らしたりジャンプをしたりするなど、触覚を刺激することで勉強の成績が上がることが研究によって明らかになりました。ただ、成績が上がるということだけではなく、感覚統合療法によって子どもたちが自信をつけていくことが彼らの成長にとって大切だと考えられています。発達障害の子どもたちは揺れに鈍感だからいつも体を動かしていたり、触覚が鈍感だから色々なものを触りに行ったりしますが、感覚統合療法はその鈍感さを調整する治療です。私は心理の勉強をする中で自信のない子がとても多いことに気づきましたが、感覚統合療法を受けて出来ることが増えれば、それは自信に繋がります。自信は持てと言って持てるものではないし、出来ない部分について話し合っても自信はつきません。だからこそ、実際に体を動かして刺激を与えるリハビリテーションという考え方が必要になってきます」
内田先生がご開業された2020年4月は、最初の緊急事態宣言が発出された時期でもある。クリニックの立ち上がりは決して好スタートを切れたとは言えないが、世間が新型コロナウイルスとの付き合い方に慣れ始めると患者数は徐々に伸びていった。
「一般小児は日によってばらつきがありますが、児童精神科は通院して治療を行うため開業時から安定して患者さんが来てくれています。開院当時は一般小児の患者さんが全く来ず不安になりましたが、冬を迎え、新型コロナウイルスも落ち着きを見せると普通の風邪で来院されるお子さんも増え、ようやく小児科らしくなりました。そう実感できるまでに1年ほどかかりましたね」
新型コロナウイルスによる影響は皆さん同じと語ったうえで、それ以外にもクリニックの院長・経営者という立場になると、勤務医時代には経験したことのない悩みも出てきたようだ。
「医師や看護師だけではなく、このクリニックには作業療法士や心理士など様々な専門家がいます。多職種の人間が集まっている故に、理想や理念を語るだけでは難しいことがあるのも事実です。しかし大変なこともありますが、クリニックが自分の居場所になり、基地のような存在が出来たのは良かったです。また、勤務医で働いていた頃と比べ、自分のやりたいように動けるようになりました。今後はクリニックでの医療提供はもちろん、“医療”という枠を超えて放課後デイサービスや訪問看護など活動を広げていきたいと考えています」 「このご時世ですから開業を決断するにも勇気がいりますし、戸建てのクリニックにするのか医療モールのテナントに入るのか等、色々な選択肢があって迷うことも多いかもしれません。開業をゴールとして気負うのではなく、自分のステップアップの為の足掛かりと考えて、一歩踏み出してもらいたいです」(掲載内容は、取材当時のものとなります)
クリニックのレイアウト
【ご経歴】
・平成13年 日本赤十字社医療センター臨床研修医
・平成15年 平成18年3月東京都立清瀬小児病院シニアレジデント
・平成18年 東京都立清瀬小児病院心療小児科レジデント
・平成20年 静岡県立こども病院児童精神科レジデント
・平成21年 東京都立小児総合医療センター心療小児科医員
・平成27年 国家公務員共済組合連合会立川病院小児科医員
・平成29年 国家公務員共済組合連合会立川病院小児科医長所属学会
・令和2年 カラムンの森こどもクリニック開院
【所属学会・資格など】
日本小児科学会専門医、日本小児心身医学会認定医、子どものこころ専門医
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